東洋医学について

About Oriental medicine
 

東洋医学について

東洋医学の歴史と特長

東洋医学は 2000年以上前の中国で発祥し、日本・中国・韓国など東アジアで発展した医学です。東アジアの気候や風土、生活習慣や考え方、および東アジア地域の人の特性に基づいた治療法が確立されてきました。さらに日本ではその学問体系が独自に発達して現代に至っています。
 
西洋医学では、身体の一部または病気そのものを重視します。診察をおこない、血液検査やレントゲン検査などで得られたデータによって、医師の診断のもとに病名が決まり、あらかじめ決められた手順に従って治療をおこないます。例えば、頭が痛い、下痢をするなどの症状に注目をします。頭が痛ければ、痛み止めを処方し、お腹の調子が悪ければ、下痢止めを処方するといった方法です。基本的には検査結果が良くなれば治療は終了します。そのため、そのときに起こっている病気や症状を抑えるのはとても早く、結果も目に見えやすいのが特徴です。しかし、病気によっては、根本原因が直っていない場合など、一度治っても何度も同じ症状を繰り返したり、新たな症状が現れたりするなど、その症状や検査結果に応じて治療を持続させなければいけません。さらに、西洋医学では原因となる異常が見つからず、病名が決まらなければ、治療ができない場合があります。そのため、自覚症状はあるけれど検査では異常がないといった「未病」の治療は不得意です。
 
逆に東洋医学の得意な分野は「未病」の治療です。東洋医学の根本的な考え方は、全身のバランスの偏りを見つけてそれを修復調整し、心身のバランスを整えることで健康を維持するというものです。「病」にはいろいろな原因が考えられますが、主にこの身体のバランスが崩れかけたときに「病」が生じ始めると考えられています。すなわち、検査データに表れるようなはっきりした「病」になる前には、必ずアンバランスが生じるということです。「未病」の考えはこういうところから来ています。
 

 
東洋医学では、カラダ全体または自然治癒力を重視します。そのため、その人に合わせた食事・生活習慣などの養生法も重要だと考えています。同じ症状・病気であっても、人間はその人の体質や状態によって、治療内容は異なると考えているからです。そのため、同じ病気や症状であっても、同じ治療ではなく、その人の体質や今起きている症状に合わせて治療を行います。
 
患者さんの身体を診れば、自ずからバランスが崩れたところ、弱っているところを教えてくれます。私たちはそれに従って鍼灸の 手技を駆使して、患者さんの自然治癒力が働くような方向に身体を変えていきます。東洋医学の神秘と威力を是非ご体験ください(詳細は よくあるご質問をご覧ください)。なお、日本において国家資格者が行う医療業と認められている東洋医学の治療法は、鍼灸治療・手技治療・漢方治療の3つです。

鍼灸の可能性

大きなパワー

ライフスタイルが多様化し、不調の原因も多様化している現代において、東洋医学は人それぞれの体質を見極めて対処するという、とても理にかなった考え方なのです。また、日本人の体質やライフスタイルに合った東洋医学は病気の治療にとどまらず、美容やスポーツといった分野でも重宝されています。
 
東洋医学、中でも鍼灸は一般にはあまり知られていないのが残念なのですが、大きなパワーの可能性を秘めています。その数例を、「鍼灸FACT BOOK」という鍼灸医療推進研究会が発行している小冊子からご紹介したいと思います。

スポーツ鍼灸

筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ医学専攻、宮本俊和准教授
 

障害の早期回復に効果

「スポーツ鍼灸は、ケガをしたアスリートに鍼灸治療を行うことで、腰や膝などの痛みを軽減し、スポーツ現場への復帰を早めたり、練習や試合などによる疲労を回復したりすることを目的として生まれたものです。
でも、今やアスリートだけでなく、健康保持増進を目的に行う中高齢者や介護の必要な高齢者の方々まで、幅広い分野に拡大しつつあります」

アスリートの世界でのスポーツ鍼灸は、
 ①スポーツ競技による外傷や障害の治療や手術後のリハビリテーション
 ②スポーツによる疲労の早期回復
 ③競技能力の向上
という3つが大きなテーマです。
アスリートの治療を行いながら、スポーツ疾患の原因と治療過程を研究していくうちに、これはスポーツ選手だけにとどまらず、一般の人々の運動や、歩く、階段を上る、立つ、座るなど、人間の日常生活に深く関わるテーマであるということが明らかになっていきます。

「スポーツ選手がケガをして手術をした場合、術後スポーツに復帰するまでのリハビリに入ります。鍼灸治療はこのリハビリの段階でも復帰を早める目的で行います。骨折、捻挫などで動かないでいると廃用性筋萎縮が始まります。これらの鍼治療の目的は、寝たきりの人たちの治療にも応用可能です」

「最近、中高年の登山が人気ですが、もし鍼灸師が登山に同行できれば、膝や腰の痛みをやわらげて、翌日の山歩きをラクにこなすことも可能です。またスポーツ選手の中には、コンディション調整のために大事な試合の前に鍼を受ける人もいます。一般の健康な人に対してもコンディションを調整し、健康な日常生活を過ごすためにも鍼灸治療は有効です。鍼灸の可能性はどんどん広がって行きます」 
 
 

病気の未然予防が東洋医学の基本

医療は、病気を治すことに終始するだけでなく、早期発見、早期の治療へ。そして今、病気を未然に防ぐために、健康な人間も半健康な人も病気にならないことを重視する時代に入りました。

「西洋医学は、基本的には、病名に基づき治療をします。しかし、東洋医学は“未病治”といって、病気を未然に防ぐという考え方が基本にあるわけです。健康な人や半健康な人が医療対象となった現在の状況は、西洋医学の考えより東洋医学の考えに近づいています」

「アスリートたちの鍼治療を部位別で比較すると、圧倒的に多いのが腰部。次に大腿部、肩関節、膝関節、下腿、足関節、頸部と続きます」

「一般の患者さんたちも、腰の痛み、肩こり、五十肩、膝痛などで、鍼治療を受けていますが、アスリートと治療部位はほぼ同じです。できるだけ健康で長生きするためには、バランスのとれた“栄養・休養・運動”が必要です。そのために、ウォーキングをしたり、山登りをしたり、運動を心がけて、元気に暮らしたいと思っている人が増えています。しかし、中高齢者のほとんどが五十肩、腰痛、膝痛などを抱えています。これらの痛みを予防し、痛みを最小限にして、運動を続けるように応援するのもスポーツ鍼灸の役割です」

宮本先生は、スポーツ鍼灸は決して特殊な世界の治療ではなく、私たちの日常生活と密着したものになる可能性があると考えています。

「ウォーキングや山登りを楽しむためにも、鍼灸治療をもっと活用していただければ、と思います。また、鍼灸師もお灸やセルフマッサージ、ストレッチ、アイシングなど、自宅でできるセルフケアプログラムを患者さんのために作成し指導するなど、工夫が必要ですね」 

耳鍼刺激による減量の可能性

メタボリックシンドロームからの脱却 (医学博士、白石武昌先生)
 

耳鍼と脳、そして食欲の研究

「耳と摂食調節中枢である脳の一部である視床下部が、ほんとうに連絡し合っているのかを、ラットを使って実験しました。耳のさまざまな場所に鍼刺激と電気刺激を行い、視床下部との神経線維連絡の有無を検討、耳のなかでも、ある特定のポイントが視床下部と相互連絡していることをつきとめたのです。次に、肥満ラットと健常ラットによる、耳鍼刺激を行いました。その結果、耳鍼療法は、食欲感の減退と満腹感発生と維持があきらかになりました。また健常ラットより、肥満ラットのほうが、その効果が大きいという結果でした」 
 

耳鍼刺激はなぜ、太るメカニズムへ作用するのか


「94 年の12 月、肥満遺伝子の解明と白色脂肪内で作られるホルモン、レプチンの発見はさまざまな医学分野に分子生物学的・遺伝子生物学的手法を導入するきっかけとなりました。もちろん肥満症の研究にも大きな発展をもたらしたのです」

「私たちは何故がお腹がすくのか、沢山食べると何故満腹になるのか、それはどのような仕組みで行われているのか。簡単に説明すると、お腹がすくと、血中のブドウ糖が低下して、脳内の摂食誘発物質が上昇し、視床下部内でブドウ糖の変化を感じる細胞の活動が高まり、食欲が発生します。そして食事をするうちに、血中の血糖値とインスリンが上昇、視床下部内のブドウ糖を受け取る細胞が興奮して、満腹感をもたらします。ブドウ糖やインスリンの上昇で発現する、ある種のホルモンの存在は、94 年までは解明されていなかったわけです」

「レプチンとは何か。食事によりインスリンやブドウ糖が上昇すると肥満遺伝子が白色脂肪組織に命令し、白色脂肪内でレプチンが生成されるのです。レプチンは自律神経系などを介して脳内へ、視床下部、そして視床下部腹内側部へとシグナルを発します。最終的に摂食の停止が命令されます。このレプチンこそ、強力な摂食抑制、体重増加抑制の作用をもつ“満腹物質”であることわかったのです」

「私たちの研究では、耳鍼刺激によってレプチンの血中濃度が増え、視床下部内の摂食促進物質の生成が抑制され、併せて種々の摂食抑制物質の分泌が亢進するなどがわかりました。このように脳内の摂食調節に関わる諸物質の消長を測定することにより、“耳鍼刺激による減量効果”が明らかになりました。これらの研究成果を国際的な専門雑誌などに既に発表しました。次に、動物実験の結果を踏まえて、肥満者やそうでない人たちに対する耳鍼刺激による減量効果も初めて発表しました。」

臨床的にある治療法が特定の疾患や症状に有効であるとする事実を理論的・実験的な手法で示すことがこれからの鍼灸のみならず医学一般にも求められているところです。

女性特有のトラブルにも鍼灸は大きな可能性を秘めている

北川 毅先生
 

鍼灸が果たす役割

たるみ、シワ、ニキビなどの皮膚のトラブル、生理痛、月経前症候群、生理不順など婦人科系疾患、ストレス性疾患などにも鍼灸が果たす役割は大きいと、北川 毅先生は指摘します。

「パソコンの使用やデスクワークの多い女性、職場でストレスを抱えている女性は、首や肩周辺に症状があらわれているケースが多いですね。また、疲れてくると、どうしても顔全体が下がってきます。そうすると老けて見える。そんなとき首、顔、足などに鍼を打つと、スーッと顔全体が上がってきます」

美容のトラブルは、そのトラブルの箇所だけ、局所的に見てしまいがちだが、東洋医学では局所だけではなく、身体全体を診てトラブルの原因を把握することを基本とします。

「美容を目的として、何回か通われた方から、肌の調子が良くなっただけでなく、手が上がらないくらいひどい肩こりが治ったと喜ばれるようなこともあります。鍼は局所だけ治すのではなく、身体の機能を調節して、身体のバランスを健康な状態に戻すのが役目。きっかけは美容ですが、“目の疲れがとれました”とか“首のコリも治っちゃった!”とか実感できるのが、鍼灸の強みだと思います」

女性ならではの悩み、生理痛や月経前症候群で悩んでいる場合にも、鍼灸で悪循環を立ち切ることで、人生が大きく変わるケースもあります。

「仕事もできなくなるほど生理痛がひどくてと、いらっしゃった女性が、鍼灸治療によって今までの人生がうそみたいというくらい改善した事例も少なくありません。つい最近も、体調が改善したことで、仕事に対する意欲が湧き、新しいプロジェクトを立ち上げて生き生きと働くようになった女性がいらっしゃいます。身体の不調によって悪循環に陥っていた仕事や生活が、鍼灸治療をきっかけとして、体調だけではなく、生活ごと改善されるケースもあるのですね。それは生理痛だけでなく、美容上のトラブルも同じこと。鍼を打つことが、小さなターニングポイントになれば、治療家としてこんなにうれしいことはありません」 

子どもと鍼灸:刺さない鍼(ハリ)?

Children
 

その人に合った鍼を

子どもに鍼?とは少し怖い印象ですが、子どもには「刺さない鍼」を使います。中国の鍼灸のバイブルにもある治療法です。皮膚への刺激を行う小児鍼を使う方法で、乳幼児から小学生の子どもが主な対象ですが、大人でも鍼を刺すと刺激が強すぎる人や抵抗の強い人などに使います。鍼灸師は、肌質、体質などしっくりと見極めて、その人に合った鍼を選んでいます。

小児鍼はいろいろな形をしています。振子鍼、いちょう鍼など接触刺激を行うタイプと、ローラー鍼やウサギ鍼など、摩擦刺激を行うタイプがあります。小児鍼は、夜泣き、かんの虫、風邪、中耳炎、夜尿症、下痢、便秘、また、喘息や花粉症などのアレルギーにも効果があります。西洋医学と異なり、副作用のない点が安心です。

小児鍼ではツボのまわりを軽く刺激していくだけで、刺激が伝わり、脳や内臓の働きを活発にします。刺激することで、血流を促進し、交感神経と副交感神経のバランスも整えて、精神的なリラックスもあります。

鍼灸院では、治療の際、家庭でもできる方法を指導してくれますので尋ねてみるとよいでしょう。 

効果のある症状

現在では、ヨーロッパやアメリカで代替医療として鍼灸療法は、相当に浸透し始めています。
以下は、WHO(世界保健機構)で鍼灸治療の適応が認められている症状や疾患です。
神経系疾患

神経痛(坐骨神経痛・三叉神経痛)・神経麻痺・筋肉痛・痙攣・脳卒中後遺症・自律神経失調症・頭痛・めまい・不眠・神経症・ノイローゼ・ヒステリー等

運動器系疾患

関節炎・リウマチ・頚肩腕症候群・頸肩こり・五十肩・腱鞘炎・腰痛・外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)・各種スポーツ障害等 

循環器系疾患

心臓神経症・動脈硬化症・高血圧低血圧症・動悸・息切れ 

呼吸器系疾患

気管支炎・喘息・風邪および予防等

消化器系疾患

胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾・口内炎等 

代謝内分秘系疾患

バセドウ氏病・糖尿病・痛風・脚気・貧血等

生殖、泌尿器系疾患

腎炎・膀胱炎・尿道炎・性機能障害・尿閉・前立腺肥大・陰萎等 

婦人科系疾患

更年期障害・乳腺炎・白帯下・生理痛・月経不順・冷え性・のぼせ・つわり・血の道・不妊症等

耳鼻咽喉科系疾患

中耳炎・耳鳴・難聴・メニエル氏病・鼻出血・鼻炎・蓄膿症・咽喉頭炎・扁桃炎・声枯れ等 

眼科系疾患

眼精疲労・仮性近視・結膜炎・疲れ目・かすみ目・ものもらい等

小児科疾患

小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・夜尿症・虚弱体質等 

皮膚科疾患

蕁麻疹・しもやけ・ヘルペス・おでき等 

アレルギー性疾患

気管支喘息・アレルギー性鼻炎・眼炎等